ミャンマーのはなし

東南アジアのユニーク国家、ミャンマーに関する情報を発信していきます。

ミャンマーのはなし

ミャンマーの”過激派仏教徒” ウィラトゥ師について

スポンサーリンク

 「過激派」と聞くと、皆さんはどのような組織をイメージするでしょうか。中東や北アフリカのテロリスト集団、もしくは欧米の極右政党、さらには、かつての連合赤軍を思い浮かべる方もいるかと思いますが、今回はミャンマーの過激派仏教徒、ウィラトゥ師についての情報を掲載します。 

 

仏教界のビンラディン

 ご存知の方も多いかと思いますが、現在ミャンマーは、ラカイン州におけるイスラム教徒迫害、暴行等に関する問題、いわゆる「ロヒンギャ問題」で欧米やイスラム諸国からの非難を浴びています。

 非難の矛先は主にアウンサンスーチー氏、もしくは暴行の当事者である軍人へ向けられているわけなのですが、そんな中、現在ミャンマーで急速に知名度を高めているのが、このウィラトゥ師です。

www.afpbb.com

国内では「仏教界のビンラディン」とも呼ばれるウィラトゥ師。その具体的な言動を見てみると……

ミャンマーイスラム教を広めたいがために、ベンガリロヒンギャの蔑称)をロヒンギャと呼ぶなど、世界にうそをつくな  

ありもしない宗教集団をでっち上げて、われわれの国を破壊するな

ここにICC(国連軍事裁判所)が来る日は、私が銃を手にする日になる

 と、かなり過激な内容、いわゆるヘイトスピーチが目立ちます。

 

徹底的な「軍擁護」と「反イスラム

 彼の言動には国内の仏教界も手を焼いており、昨年3月には、仏教僧侶の最高管理組織である「サンガ・マハ・ナヤカ委員会」が、ウィラトゥ師の説法を1年間禁止する措置を取りました。

www.nna.jp

その禁止期間も先月で終了したわけですが、早速「国家と国軍に圧力をかけ、内政を妨害する外国組織への反対と糾弾」という名目で国軍支持のデモ活動を行いました。

 

モンスターを生み出した「facebook」という存在

 ラカイン州で発生している問題を見て、「ミャンマー人って結構排他的な国民性なんだな……」と思った方もいるかもしれません。ただ、ヤンゴンの街なかをフラフラと歩いてみると、イスラム教のモスク、キリスト教の教会、ヒンドゥー教の寺院など、異なる宗教が共存している様子を肌身に感じることが出来ます。私個人の印象としては、他の宗教にも寛容なのがミャンマー人の国民性、という印象。それでもウィラトゥ師のような過激な言動、ヘイトスピーチが一定の支持を得てしまう背景として、ここ最近は、「facebook」の存在が頻繁に挙げられています。

www.buzzfeed.com

ミャンマーでは近年急速にスマートフォンの使用率が拡大。ガラケーやパソコンを持っていなくても、スマートフォンであれば国土の隅々まで行き渡っています。そこで利用者が拡大しているのがfacebookミャンマー国民の識字率の高さも影響しているのか、とにかくスマホfacebookという感じで、日夜コミュニケーションを取り合っています。

 ただインターネットの言論空間は、先進国の日本やアメリカにおいても、現実社会よりむしろ閉鎖的で、過激な言動を生んでしまいがちです。インターネットが人々の身近なものになったばかりのミャンマーは、恐らくインターネットリテラシーの低い方も比率として多いのでしょう。先日も、ラカイン州議会の議員が、

ベンガリロヒンギャの蔑称)は非政府組織から報酬をもらって自分で自宅に火をつけた

と嘘をついたり、

イスラム教徒は子どもをたくさん産んでラカイン州の多数派になろうとしている 

と非難します。さらには、イスラム教徒に対して、殺されることを覚悟するよう告げる投稿もあり、さらにはその投稿に一定の「いいね」がつくという事態。facebookが、過激な人間を許容する空間となってしまっているわけです。

 

facebookの対応

このような差別的言動に、facebookも対応策を練っていますが、なかなか効果が表れてこない、というのが実情のようです。

jp.reuters.com

前述したウィラトゥ師のfacebookアカウントは閉鎖されました。軍高官のアカウントも多く削除されました。しかし、差別的言動の多くはミャンマー語で書かれているわけですから、米国の企業であるfacebookには、なかなかスピーディーな対応が出来ません。しかし、対応が難しいからといって、放置することも出来ません。ミャンマーではますます排他的な言動が目立っていく、その結果、国際社会の矛先がアウンサンスーチー氏に向かえば、軍人の影響力は増加。長期的に見れば、ミャンマー民主化プロセスすら危うくなってくるというわけです。

 

 facebookはもはや、一国の民主化プロセスの成否すら左右するほど、巨大な存在になってしまったのかもしれません。